
お悩み相談事例 妻の行き過ぎた推し活による夫婦関係の悪化に離婚を考える夫
「行き過ぎた推し活に悩んでいる」
ときどきこのような悩みを耳にすることがあります。
「推し活」と聞くと、趣味なのだから好きにすればいい、
と思う方もいるでしょう。
一方で、時間やお金の使い方が変わり、家庭生活に影響が出てくれば、夫や妻にとっては笑って済ませられない問題になります。
ただ、私は夫婦カウンセラーとして、
「推し活をやめれば夫婦関係は元に戻る」と単純に考えないことも大切だと思っています。
今回は、妻の推し活をきっかけに離婚まで考えるようになった、あるご夫婦の事例をご紹介します。
※プライバシー保護のため、事例は内容の一部を変更しています。
相談事例「妻の推し活をやめさせたい」離婚を考える夫
相談に来られたTさんは、結婚18年目。
共働きで、お子さんが一人いらっしゃいます。
これまで大きな夫婦喧嘩をしたことはなかったといいます。
ところが3年ほど前から、妻があるアイドルグループに夢中になります。
年に5回ほどライブ遠征に出かけ、きれいに着飾って嬉しそうに家を出ていく。
しかも妻の「推し」は、Tさんとは正反対のタイプ。長身でイケメン、夫婦よりずっと若い男性でした。
Tさんは当初、「まさか妻が、あんなチャラチャラした男にハマるとは」と呆れながらも、「家事さえちゃんとやってくれれば」と静観していたそうです。
妻から帰ってきた予期せぬ言葉
しかし最近ではライブだけでなく、握手会などのイベントにも頻繁に参加。
お金の使い方も変わり、家事も明らかに疎かになってきました。
とうとうTさんが不満をぶつけると、大喧嘩に。
妻から返ってきたのは、
「私が稼いだお金でやっているんだからいいでしょ」
「家であなたみたいな見た目にだらしない人と顔を合わせていたら、推し活で紛らわせたくもなるわよ」
という言葉でした。
「確かに結婚前より20キロ近く太りましたし、家では万年部屋着です。でも、そこまで言われなきゃいけませんか?」
そう話すTさんの表情には、怒りだけではなく、傷ついた気持ちがにじんでいました。
喧嘩から半年。夫婦の会話は必要最低限。
「妻がこのまま推し活をやめないなら、離婚も視野に入れています。」
これがTさんのご相談でした。
妻が「推し活」にハマるのはなぜ?

推し活にハマるきっかけは人それぞれですが、共通しているのは、日常では得にくい幸福感やワクワク感を得られることでしょう。
今はSNSを開けば、好きなアイドルの日常や素顔に触れられます。
ステージ上のパフォーマンス以外の情報も流れてくるため、知れば知るほど新しい魅力が更新されていくのです。
料理をしながらでも、家事の合間でも、スマホ一つで「推し」に会える。
さらに推し仲間ができれば、「好き」という気持ちでつながれる一体感も生まれます。
妻でも母親でも会社員でもない、ひとりの自分として夢中になれる時間。
Tさんの妻にとっても、推し活は平凡な毎日の中にある「キラキラした時間」になっていたのでしょう。
妻の行動を理解する努力も必要です
もちろん、だからといって行き過ぎた推し活をすべて肯定するわけではありません。
家を頻繁に空ける、家計に影響するほどお金を使う、夫婦で決めた役割を果たさなくなる。家庭生活に支障が出ているのであれば、夫が不満を持つのは当然です。
ただ、Tさんのお話を聞きながら、私は少し気になっていることがありました。
Tさんは何度も、妻の推し活を「くだらない」と表現していたのです。
妻にとって推し活とは何かを考えることさえしませんでした。
「推し活以外に、夫婦関係が悪くなった原因として思い当たることはありませんか?」と私が尋ねると
すると、Tさんはしばらく黙ったあと、少しずつ話し始めました。
推し活以外の根本的な問題が潜んでいることも
ここ10年ほど、妻にプレゼントをしたり、喜ばせるような言葉を伝えたりすることはほとんどなかった。
最初の頃は妻も不満らしいことを口にしていたけれど、いつの間にか何も言わなくなった。
「妻はさっぱりした性格なので、そういうものを求めていないと思っていました。僕自身、昔からクリスマスとか記念日とか、あまり好きじゃないですし……」
夫婦関係では、「何も言わなくなった=不満がなくなった」とは限りません。
期待して伝えても届かない。その経験が積み重なった結果、「もう言わなくていい」と諦めてしまうこともあります。
誕生日すら忘れている
感謝の言葉が一切ない
だらしない服装を一向に変えてくれない
実は妻の推し活にも、こうした不満から目を逸らしたい心理が隠されていたのかもしれません。
推し活が夫婦関係を壊したように見えて、実はその前から、二人の間には小さなすれ違いが積み重なっていたのかもしれないのです。
推し活が夫婦関係に与える影響は、悪いものだけではない

意外にも、推し活が夫婦関係にプラスに働いたという報告もあります。
好きなものができて妻が生き生きする。
外出する機会が増えておしゃれを楽しむ。
毎日に張り合いが生まれ、家庭でも機嫌よく過ごせるようになる。
そんな変化も十分に考えられます。
大切なのは、夫が妻の「好き」を認められるか、そして妻も夫や家庭への配慮を忘れずにいられるかです。
夫が「くだらない」と切り捨て、妻が「私のお金だから勝手でしょ」と突っぱねる。
これでは、お互いの正しさをぶつけ合うばかりになってしまいます。
問題は「推し活をするか、しないか」だけではありません。
お金はいくらまで使うのか。遠征はどの程度なら負担にならないのか。家事や育児をどう分担するのか。そして、お互いにどんな寂しさや不満を抱えていたのか。
夫婦で話すべきことは、その先にあります。
カウンセリングを終えて、夫に起きた変化
カウンセリングでは、まずTさんの気持ちを丁寧に伺いました。
妻の金遣いへの不安。
家事への不満。
自分ではない若い男性に夢中になる妻への複雑な気持ち。
そして、喧嘩のときに言われた言葉で深く傷ついたこと。
どれも「そんなことで」と片づけていい感情ではありません。
一方で話を整理していくうちに、Tさん自身も「自分は最初から妻の推し活に偏見を持っていたかもしれない」と気づいていきました。
そして、相談当初の「どうしたら妻に推し活をやめさせられるか」から、
「妻の楽しみを奪うよりも、これから夫婦としてどうしたいのかを考えたい」
という方向へ、少しずつ気持ちが変わっていったのです。
私は、この「問題の見え方が変わる瞬間」をとても大切にしています。
夫婦は話合ったところ…
妻は普段、気持ちを言葉にしない夫の本音や変化に戸惑っていたそうです。
「そこまで考えてくれていたなんて、知らなかった。家事から逃げるような推し活は今後控えるから」と妻。
夫の提案で、おしゃれなレストランで食事をしたとき、珍しく夫が見た目に気を遣ってみたそうです。
そのときの妻は予想以上に喜んでいたそうです。
解決できないときはカウンセリングという選択肢を
夫婦の問題は、二人だけで話し合おうとすると難しいことがあります。
長年一緒にいるからこそ、「またその話?」「どうせ分かってくれない」「そっちだって」と、過去の感情まで一緒に出てきてしまうからです。
とくに「推し活」「お金」「家事」「容姿」「愛情不足」「離婚」といった問題は、ひとつのテーマから別の不満へ飛び火しやすく、冷静に整理するのが難しくなります。
夫婦カウンセリングは正誤を判定する場所ではありません
私は、「離婚すべき」「我慢して結婚生活を続けるべき」と、相談者さまの人生を代わりに決めることもしません。
絡まってしまった気持ちをひとつずつほどきながら、何が苦しかったのか、相手に何を望んでいるのか、関係を修復する余地があるのかを一緒に整理していきます。
そのうえで、ご本人が納得できる最善の選択を見つけていく。
それが夫婦カウンセリングの役割だと私は考えています。
妻の推し活を見て「もう離婚しかない」と感じている方も、反対に、夫から趣味を理解してもらえず苦しんでいる方も、結論を急ぐ必要はありません。
推し活が問題なのか。それとも、推し活をきっかけに、それまで見えなかった夫婦の問題が表面に出てきたのか。
一度、ゆっくり整理してみませんか。
誰にも話せず抱えてきたお気持ちも、そのままお聞かせください。
夫婦のこれからを考えるための糸口を、一緒に探していきましょう。
